既存の楽曲のピアノ演奏用譜面は, 楽器店や書店, またはインターネットショッピングなど, 様々な場所で簡単に購入することができる. ただし, そのピアノ演奏用譜面は, ピアノの音色の特徴を生かすことよりも, その楽曲に対して原曲の雰囲気を忠実に再現することに重きをおいたものが殆どである. 特に伴奏パートでは, 原曲のドラムなどのリズムパートをそのままピアノ編曲にも反映させようとしている部分が多く見られる. ピアノ編曲において原曲どおりに編曲することは確かに重要なことである. しかし, ここで原曲の雰囲気にあえて近づけないほうが, ピアノ本来の音色の良さを生かした編曲ができる可能性がある.
市販されているピアノ編曲譜面には, 通常のピアノ編曲だけでなく, ジャズ風やバラード風など, 様々なジャンルに編曲されたピアノ編曲譜面が多くある. 中でもバラード編曲は, ジャンルを変えたピアノ演奏用譜面として多くの譜面が市販されている. よって, バラード調のピアノ演奏用譜面には需要があると考えられる.
そこで本研究では, 既存のピアノ演奏用譜面から, バラード調に編曲されたピアノ演奏用譜面を生成するシステムを提案する. 編曲は, 既存のピアノバラード楽譜から得られたバラード調の特徴を基に行う. 特に本研究では左手の伴奏パートに着目し, 様々な角度から楽譜の分析を行った. その結果, ピアノバラードの伴奏パートには, 特定の分散和音が多い, 全音符や2分音符の和音が多い, 16分音符などの早いリズムの音符が少ない, などの特徴を得ることができた. これらの特徴から, 通常のピアノ譜面からバラード譜面への編曲に対する伴奏パートの変換ルールを設計し, 各小節ごとに変換ルールを適用させていくことでバラード調へのピアノ編曲が実現される.
本システムは, 既存の楽曲のピアノ演奏用譜面からバラード調の特徴に基づきパラード調になったピアノ演奏用譜面を生成する. ユーザーは1小節ごとにどのような伴奏にするかを, システムの手動操作を行うことで決定し, より自身がイメージしたものに近いピアノ編曲譜面を生成することができる. また, 本システムには全ての小節を一括で編曲する自動編曲機能もあり, 手動による編曲操作の手間を省くことができる. ユーザーは自身の好みに合わせて編曲方法をカスタマイズし, より自身の理想に近いピアノ編曲の実現が可能となる.
本システムで生成された譜面は, 音楽的な知識のある専門家に評価してもらった. 1つの譜面に対して, 原譜と, 本システムを使って4つのパターンで編曲した譜面について, 「弾きやすさ」「音と音の繋がりの良さ」「伴奏パターンの違和感のなさ」「バラードらしさ」の4項目を10点満点で点数をつけてもらった. 結果, 「音と音の繋がりの良さ」「伴奏パターンの違和感のなさ」に関しては, 原譜が最も高い点数となったが, 「弾きやすさ」「バラードらしさ」に関しては, 本システムを使って編曲をした譜面が一番高い点数となった. 以上から, 本システムを用いることで,ピアノ演奏用譜面をバラードらしく編曲できることが確認できた.